以前からあったことではありますが、最近よく小学校での「さん付け」についてメディアで賛否(どちらかというと否定?)を目にします。教師から見た実態について考えたいと思います。
「あだ名禁止」を否定する人は多い
厳密に調査したわけではありませんが、「あだ名そのものを禁止」することに否定的な意見が多いように感じられます。私も同意です。
友達と親しくなると、自然と名前を呼び捨てしたり、「〇〇っち」「〇〇やん」とか「ちゃん」「くん」呼びになったり、自然と色々な呼び方になりますよね。人との関係を深めていく中で呼び方が変わるのは素敵なことだと思います。
そんな中で、自分は何と呼んでほしいのか、という思いを持って、それを相手に伝えられることはとても大切だと思います。どこに行っても、どんなに親しい人にも「さん」付けでしか呼んでもらえないのは寂しいですよね。
そして、私は学校で働いていて「あだ名禁止」と言われたこともないし、クラスをあだ名禁止にしている先生にも未だ出会ったことがありません。
公的な場(授業など)では「さん付け」
ただ、授業中に意見をやり取りする時は、私自身も子どもを「さん付け」で呼びますし、子ども同士でも「さん」を付けるように呼びかけます。その際、しっかり理由を伝えて、子ども自身が納得して「さん付け」するようにしています。
社会に出ると、仕事仲間や取引先にはたいてい「さん付け」ですよね。会議中に相手をあだ名で呼ぶ人なんていません。そんな話をすると、子どもたちから「授業中は『さん』をつけないと変だよ。」という声が上がってきます。
さらに、「『さん』を付けるのは、相手の名前を大切にしている気持ちの表れだよ。」という話もします。名前(ファーストネーム)は、保護者がその子の幸せを願って一生懸命考えた大切な名前です。そんな話をすると、「自分の名前も他の人の名前も大切にしたい。」ということも子どもたちから自然と出てきます。
「あだ名を禁止にする=いじめ防止」ではなく、「名前はその人にとって大切なものだ」という意識がいじめ防止に大切なのではないでしょうか。
「自分が何と呼ばれたいか」が大切
公的な場所では大人も相手を「さん付け」で呼ぶ、ということを踏まえた上で、一年の始めや学期の節目などで、自分はクラスで何と呼ばれたいか、ということを確認します。
もちろん、突然聞くのではなく、「明日、みんなになんて呼んでほしいかを一人ずつ聞きたいと思っているよ。お家で考えてきてね。」「特別な呼び方、さん付け、ちゃん、くん、よびすて、おまかせ、どれでもいいよ。」と言っておきます。
すると、本当に人それぞれで、どう呼んでほしいかを全員しっかり教えてくれます。希望の呼び方で呼んであげると、どの子も嬉しそうな笑顔を見せてくれます。
それでも時々嫌な呼び方は出てくる
こんな風にしても、1年間同じメンバーで毎日過ごしていると、「○○って呼ばれて嫌だった」なんていう訴えは必ず出てきます。ですが、一年の始めに「名前の大切さ」と「自分が何と呼ばれたいか」の指導をしておくと、解決は早いです。ポイントは、教師が指導するのではなく、子どもたちの口から「何がいけなかったのか」「どうすればいいのか」が出るようにすることです。
また、本人が嫌だと言えなくても、周りの子どもが教えてくれることもあります。
大事なのは、一律に「さん付け」を強制することではなく、相手とコミュニケーションを取りながら、互いに気持ちよく過ごすためにはどうすればいいのか、を意識できるようになることです。そのことを考えずに一律に「さん付けを強制」する学校や教師に、運よく未だ出会ったことがないのですが、そのような人もいるのでしょうか…
おまけ:始まりは「勝手に男女を決めない」ためだった
私が初めて「さん付け」指導について聞いたのは、もうだいぶ昔の教育実習の時でした。LGBTという言葉もまだなく、私のジェンダーに対する意識も恥ずかしながら皆無でした。
当然のように男子には「くん」。女子には「さん」(低学年には「ちゃん」)。すると、その時の指導教諭の先生が教えてくださいました。
「見た目は女の子でも、自分では男の子の気持ちでいる子もいるからね。自分が呼ばれたくない呼び方をされても、恥ずかしくて言えない子もいるよ。」
そんなことを考えたことがなかったのでショックでした。今まで私自身の学校生活は全て男女別で、疑問に感じたこともありませんでした。
それからは、勝手に男女の役割を決めていないか、もし自分の中身が逆の性だったらどうだろうか、を考えるようになり、呼び方も気を付けるようになりました。
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まとめ
「さん付け」でも「あだ名」でも、「相手を大切にする」という根っこを子どもたち自身が知っていることが一番です。呼び方に限らず、自分以外の人の存在も大切にする気持ちが、回りまわって自分の幸せにもつながるのではないでしょうか。